個人情報ほご自治会

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ブロッキングについて考える③

 引き続いてブロッキングについての話です。先の記事でご紹介したように、日本では現在「児童ポルノ」に限定してブロッキングが実施されています。その対象リストの作成方法は、下記のような流れで行われます。

 

児童ポルノブロッキング | 一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会 - ICSA

 

 文章でも説明しておきますと、インターネットホットラインセンター(IHC)が通報から対象リストを作成し、それを警察庁とインターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)へ配布します。警察庁ではそれをもとに捜査を行います。一方ICSAでは、そのリストの妥当性を判断し、削除困難であることも確認したうえで、「関係事業者」への提供を行います。関係事業者はそのリストに対してブロッキングを実施するというわけです。色々段階を踏んで慎重に行っていることがわかります。警察へ通報⇒警察の判断で警察からISPにブロッキング命令が出て、それにISPが従っている、というわけではありません。このほうがどう考えても早いし効率的なのですが、これを国(公務員)がやると問題があるのであえて避けているわけです(憲法違反、検閲の問題)。

 

 あらためてブロッキングに関連している団体について確認しておきます。まずIHCですが、2006年に設置された団体で、管理運営しているのは一般社団法人セーファーインターネット協会です。つまり公務員ではなく民間運営です(ただし、警察庁から業務委託されており、IHCの組織・体制を確認するとオブザーバーとして「警察庁情報技術犯罪対策課」の名前はあります)。また、公開されているIHCメンバーを見ると、大学教授・PTA関係者・弁護士・ネット関係団体の方などが名前を連ねています。一人くらい警察や官僚出身の天下り人がいても良さそうですが、それすら避けているのかもしれません。もっと下には存在するのかもですし、官僚⇒民間企業⇒社団法人の方がいるかもですが、そこまでは調べてません。そして、ブロッキング対象リストを実際に作成するICSAも、同様に一般社団法人です。会員はプロバイダなどの民間の通信関連企業ですし、実際にブロッキングを行うのはこの会員企業の一部だけです。つまり通報受理から実施まで、ブロッキングに関わる団体は全て民間なのです。これ、一般市民の方はあまり知らないのではないでしょうか。私も警察が直接命令しているのかと最初は思っていましたから。

 

 では、海賊版のときに問題となったブロッキングの手順はどうだったのでしょう。ざっくり以下のような流れでした。

 

2018年4月13日:知的財産戦略本部会合・犯罪対策閣僚会議で、

・「法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として」、一部サイトについて「民間事業者による自主的な取組として」、ブロッキングを行うことが適当である」とした

・今後は新たに悪質な海賊版サイトが登場した際に速やかにブロッキングを実施するため、知的財産戦略本部の下で、関係事業者、有識者を交えた協議体を設置し、早急に必要な体制整備を行う、とした

2018年4月23日:NTTグループ3社が、準備が整い次第、政府が悪質と認めた3サイトを対象としたブロッキングを実施すると発表

 

 上記のように国の会合から僅か10日後にいきなりNTTが「自主的に」実施すると言い出したことで、反対意見に火がついたとも考えられます。児童ポルノではブロッキングを行っているICSAにも反対されてしまう等、必要な体制整備はいまだに実現していない状況です。

 

 もし誹謗中傷・名誉棄損や個人情報拡散サイトに対してブロッキング導入を目指す場合、同じ轍を踏まないようにしなければなりません。つまり、民間団体による自主的取り組みとしてブロッキングを行える体制を作る必要があります。現在は児童ポルノに対するICSAのようなそれを担える団体は存在しませんから、新たに設立する必要があるでしょう。個人情報保護法の改正には、この点も視野に入れられる新体制の構築も盛り込んで欲しいと考えています。

 

 なお余談ですが、児童ポルノのブロッキングのフローを見る限りでは、警察へ通報してもブロッキングは行われません。そういう情報ルートは存在しないからです。警察で被害者に対してIHCに通報したらICSAへ情報展開してブロッキングしてくれるよ、と説明しているのかも不明です。まあしてるのではないかと思いますが・・・。さらに余談ですが、IHCは児童ポルノの場合、直接ISPやサイト管理者への削除要請も行っているようです。誹謗中傷・名誉棄損の案件でも、悪質なものについてはできれば同じような対応をして欲しいですね・・・