個人情報ほご自治会

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全国銀行協会が出した意見書

「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」に関する意見書を紹介する記事で触れていた件です(記事のリンクはこちら)。

 

全国銀行協会」が出した意見書には、特に注目すべき点がありました。

 

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/opinion/opinion320114.pdf

 

この意見書はかなり事細かく作成されている印象なのですが、「13ページ」に着目していただきたいと思います。このページの意見は、大綱の「第2節 事業者の守るべき責務の在り方」の「2.適正な利用義務の明確化」に対してのものです。大綱のその部分を以下に転載します。

 

「2.適正な利用義務の明確化

昨今の急速なデータ分析技術の向上等を背景に、潜在的に個人の権利利益の侵害につながることが懸念される個人情報の利用の形態がみられるようになり、消費者側の懸念が高まりつつある。

そのような中で、特に、現行法の規定に照らして違法ではないとしても、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれのある方法により個人情報を利用するなど、本法の目的である個人の権利利益の保護に照らして、看過できないような方法で個人情報が利用されている事例が、一部にみられる。

こうした実態に鑑み、個人情報取扱事業者は、適正とは認めがたい方法による、個人情報の利用を行ってはならない旨を明確化することとする。」

 

少し長いのですが、非常に重要な部分です。重要なのですが、ちょっとわかりにくいといいますか、何のことを言っているのですか?と聞きたくはなります。それと表現の仕方にも少し引っ掛かる部分もありますが、まあ我々は「あの件の話ね」と思い当たる節があるわけです。

 

さて、それを受けての全銀協の意見書が以下です。

 

「適正とは認めがたい方法による、個人情報の利用を行ってはならない」とは、具体的にどのようなケースを念頭に置いているのか。違法な詐欺的商法のターゲットを探すために個人情報を分析する場合や、特段の合理的理由なく破産者や前科保有者を広く公開するようなケースがこれに当たるということか。」

 

まあズバッときました。全銀協がここまでダイレクトに問題を把握したうえで実例としてあげてくるとは思いませんでした。ちなみに、私が読んだ企業や団体の意見書の中では、「この件」に明確に触れているのは全青司とここだけです。銀行ですから、クレジット/ローン等とダイレクトにリンクする破産に関して触れるのは当然なのですが、前科保有者にも触れたことに大変驚きました。そして意見書は続きます。

 

「これに対し、個人情報を用いて、

①採用活動において内定辞退率を推定すること

②退職率を推定すること

③借主がローンを支払わなくなる可能性を推定すること

④特定の個人が反社会的勢力であることやマネーローンダリングを行なっている可能性を推定すること

などは、いずれも本人の不利益ともなり得る推定に個人情報が取り扱われているともいい得るが、正常な社会経済活動において必要性が認められるものであり、本規定において禁止されるものではないという理解でよいか。」

 

「左記(※)①~④のような正常な社会経済活動において必要性が認められる個人情報の取扱いに本規定が適用されないことを確認したい。」※意見書ではこの文の左に上の文章が書いてあります。上記と読み変てください。

 

この流れで急に①②を入れてくることに私は違和感を感じたのですが、これはあえてクッションとして入れたのではないでしょうか。破産や前科は内定辞退や退職率には直結しないと思いますので。いえ、銀行では採用後に発覚したら辞めさせてます、というなら話は別ですが・・・文章の流れからすると前文に関連付け易いのは③④であり、特に意見書において確認しておきたいことも③④だと私は感じました。

 

ここからは個人的な解釈の範疇であり、私の国語力の問題にもなるのですが、あえて書かせていただこうと思います。

 

私はこの意見書を読んで、全銀協は「破産や前科データを業務に利用」しており、それは具体的には「借り手が返済しなくなる確率の推定」及び「借り手が反社勢力やマネロンを行っている可能性の推定」に用いていて(あるいは用いたいと考えていて)、さらにその行為は「社会経済活動を行ううえで当然認められるべきだ」と考えているのだ、と解釈しました。

 

前者の「借り手が返済不能になる確率の推定」に関しては、まあわからんでもないです。そういう統計的なデータがあっての意見書ならば、そうなのかもしれません。ただ、手続きを終えた/刑期を終えてやり直そうとしている人が、また返済しなくなる/できなくなる可能性が本当に高いのだとしたら、それは当人の資質だけでなく社会的な問題もそこに潜んでいるような気はしますが・・・問題は後者のほうです。

 

「反社勢力やマネロンを行っている可能性の推定」とは何事でしょうか。どういう見識でこれを出したのか真意を問いたいです。これを社会経済活動において必要だと認めることは本当に正しいのでしょうか。これを正しい使い方だと認めることは、不当な差別に繋がらないのか。某マップのような事件を容認することに繋がらないのか。企業団体がこんな内容を含む意見書をそのまま公表してしまって大丈夫なんですか?質問してみようと思います。

ご意見・ご要望 | インフォメーション | 一般社団法人 全国銀行協会

私の国語力不足でしたらごめんなさいします。

 

(追記)辛辣な内容を書きましたが、基本的に営利私企業が内部で行う査定にどんな係数を用いようが、そしてその重み付けをどう設定しようが、外からとやかく言われる筋合いはないと思ってはいます。ただ、そういう使い方を自分の業界だけでなく社会全体に影響を及ぼす法律の改正に関する意見書に盛り込んで、お上に問題ないですよねとお伺いを立てるという行為は、やはり企業団体として不適切なのではないかと感じます。